「AI」。2020年6月、Googleでこのように入力して検索をかけると、約30億件もの情報にヒットします。「Japan」を検索した際のヒット数も同じく約30億件だったことから、現在、世界でどれほどAIが注目されているのかがお分かりになるかと思います。本稿を読んでくださっているみなさんも、おそらく機械学習やAIに関して興味・関心をお持ちでしょう。
しかし、機械学習やAIは非常に複雑な理論の上に成り立っており、関連する分野も多岐に渡ります。また、急速に進歩している分野であるため、スキルを客観的に測定するための資格などの制度もまた、発展途上にあります。ゆえに、以下のような悩みや希望をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
「興味を持ったはいいものの、何から学び始めたらいいのか分からない。」
「勉強しているけれど、目標がなくてモチベーションが続かない。」
「せっかく学ぶなら、成果を就職活動や仕事で明確にアピールしたい。」
本稿では、そんな方々にぴったり、かつ今注目の検定試験である「G検定」(ジェネラリスト検定)をご紹介します。また、G検定2020#1(2020年第1回試験)合格者による勉強法解説も併せてお届けします。
< 速報!2020年第2回G検定の受験データ発表 >
*2020年7月21日追記情報
2020年7月4日(土)に実施されたG検定の受験データが発表されました。 今回のG検定は、12,552名の方が受験され、8,656名の方が合格されたようです(合格率は68.96%)。合格された皆様、おめでとうございます!
今回のG検定では、受験者数と合格者数がそれぞれ前回の約2倍になりました。理由としては、①AI活用の進展を予測し、その知識を重要視する個人・企業が増加した。②新型コロナウイルスによって自宅にいる時間が増え、資格試験のための勉強時間を確保することができた。③受験料が通常の半額であったという3点が挙げられています。このように、G検定は今後も多くの方が受験し、知名度もますます上昇していくと予測されます。今回受験されなかった方は、次回の2020年第3回試験(2020年11月7日(土)実施予定)の受検を検討してみてはいかがでしょうか。
G検定とは?
G検定(ジェネラリスト検定)とは、日本ディープラーニング協会(以下、JDLA)によって実施されている資格試験です。「ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定する」(引用:JDLAホームページ)ことを目的に、2019年以降1年に3回実施されています。
なお、JDLAではG検定の他に、エンジニア向けのE資格という資格試験も実施しています。E資格は、「ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定する」(引用:JDLAホームページ)ことを目的に実施されており、AIの実装までが検定の対象となっている点に特徴があります。
本稿では初学者でも比較的取り組みやすいG検定に関して、詳細に解説いたします。
G検定の概要
下の二つの表は、G検定2020#1(2020年第1回)の年代別合格者数(表1)と業種別合格者数(表2、複数回答)についてまとめられたものです。これらの表を見ると、G検定がいかに幅広い年齢層・業種で注目されているかがわかります。それでは、G検定の受験資格、実施概要、出題範囲、受験費用を確認していきましょう。
受験資格
特に制限はありません。どなたでも受験できます。
実施概要
試験時間:120分
出題形式:多肢選択式約220問
実施形態:オンライン試験(自宅受験)
出題範囲
- 人工知能について
- 機械学習について
- ディープラーニングの各種手法について
- ディープラーニングの応用例について
- ディープラーニングの応用に関する課題について
大まかに分けて、以上の内容の問題が出題されます。このように、ディープラーニングに関する基礎知識から、具体的な手法や応用例、課題までを網羅的に出題するのが、G検定の特徴です。※より詳しい出題内容が知りたい方は、ぜひJDLAのホームページをご覧下さい。
受験費用
G検定の特徴
では、G検定はどのような特徴を持つ検定なのでしょうか。長所と短所に分けて解説いたします。
G検定の長所
1.機械学習・AIの基礎を効率的に学べる
2.合格率が比較的高い
3.機械学習・AIの知識がある事を証明できる
4.合格者のコミュニティに参加できる
G検定の短所
1.機械学習を実装するスキルは身につかない。
2.知名度があまり高くない。
G検定の長所
1.機械学習・AIの基礎を効率的に学べる
前述のように、G検定ではディープラーニングの基礎に関する問題が網羅的に出題されます。そのため、対策用の書籍も非常に体系的にまとめられています。ゆえに、G検定の対策を通して機械学習・AIの基礎を効率的に学ぶことができます。
2.合格率が比較的高い
JDLAによると、G検定受験者数の推移は図1のようになっています。前回試験の合格率は66.7%、これまでの全試験累計合格率は67.9%です。
ちなみに、簿記3級(日本商工会議所)の過去10年累計合格率が42.23%、ITパスポート試験(日本情報処理機構)の過去10年累計合格率が48.9%です。このように、他の有名な資格の基礎的なカテゴリーの試験と比べると、G検定の合格率が高いことがお分りいただけるかと思います。 合格率が高いということは、以下の3、4で挙げるメリットを享受できる可能性が高いということです。ゆえに、高い合格率自体もG検定の長所の一つと言えるでしょう。
3.機械学習・AIの知識がある事を証明できる
G検定に合格した場合、JDLAから「合格証」と「合格認証ロゴ」が贈られます。特に、合格認証ロゴは画像データで渡されるため、履歴書や名刺に載せることが可能です。これによって、就職活動や仕事の場で、機械学習・AIの知識があることを証明することが出来ます。
4.合格者のコミュニティに参加できる
さらに、G検定に合格すると、CDLEという合格者コミュニティに招待されます。このコミュニティには、G検定またはE資格の合格者のみが参加することが出来ます。筆者もslackというツールを用いたCDLEのオンラインコミュニティに参加していますが、高校生から年配の社会人まで多様な構成員がおり、AIの様々な分野に関する投稿や意見交換が活発に行われていることから、日々刺激を受けています。今後ますます発展していく機械学習・AI分野に関わる人々のつながりは、長期的にみて様々な場面で活かせることでしょう。
G検定の短所
1.機械学習を実装するスキルは身につかない。
プログラミングはG検定の試験内容に含まれないため、G検定の対策だけでは、機械学習・AIを実装するスキルを身につけることはできないでしょう。あくまで機械学習やAIに関しての体系的な知識を身につけるための試験と認識しましょう。機械学習・AIの実装に関しては、JDLAが実施しているもうひとつの試験であるE資格の試験範囲です。実装についても学びたいという方は、E資格の受験まで視野に入れておくと良いでしょう。また、G検定対策では重点的に学べない内容を学ぶのにおすすめのその他の資格などについては、本稿の最後をご覧ください。
2.知名度があまり高くない。
下記の図2をご覧ください。これは、過去1年間の日本におけるGoogle検索の人気度を、統計検定(日本統計学会)、ITパスポート試験(日本情報処理機構)、そしてG検定の3つの試験で比較した図です。この図を見る限り、G検定は他の統計・IT系試験と比較すると、まだそれほど知名度が高くないと言えるでしょう。ただ、G検定は2017年度から行われている新しい検定試験です。そして、長所2「合格率が高い」のところで示した図を見ていただくとわかるように、受験者は概ね増加傾向にあり、今後さらに知名度は上がっていくと思われます。
合格者が徹底解説!G検定勉強法
それでは、G検定に合格するためにはどのように勉強を進めれば良いのか、G検定2020#1に合格した筆者の体験をもとに、以下の順番でご説明していきたいと思います。
- 試験の特徴と勉強の方針
- G検定対策おすすめ書籍
- おすすめ勉強モデル
- 受験時のアドバイス
試験の特徴と勉強の方針
それでは、まず最初にG検定試験の特徴と、それぞれの特徴を踏まえてどのように勉強を進めればいいかについてご説明します。
暗記よりも理解重視:時間をかけて正確に理解
G検定は全問多肢選択式であることから、単語を思い出して記述するレベルの暗記は必要とされません。それよりも、AIに関する概念やディープラーニングの手法に関する正確な理解が要求されていると言えるでしょう。ゆえに、まずは基本的な事項について丁寧に解説されている書籍をじっくり、可能であれば繰り返し読み、G検定対策の土台を作ることが重要です。
時間との勝負:問題集で対応力アップ
G検定は、120分で約220問を回答しなければならないため、時間的にかなりシビアな試験となっています。回答にかけられる時間は、単純計算で1問あたり約30秒しかありませんので、基本的な問題は迷いなく即答できるだけの実力が必要です。したがって、ある程度基本事項が理解できたら、問題集を使って様々な問われ方に対応できるようにし、かつ知識の定着を図ると良いでしょう。
最先端分野ならではの出題:時事ネタを収集
機械学習・AI・ディープラーニングは、日進月歩の最先端分野です。日々世界中の研究者やエンジニア、ビジネスマンが、新たな手法の開発やビジネスへの応用に挑戦し続けています。そのような、分野としての特徴を反映し、テキストや問題集にはまだ載っていないような最新の内容が一定数出題されることも、G検定の特徴の一つといえるでしょう。具体的には、最新のAI活用事例や、現在進行形で議論されているAI関連の法や倫理面の論点についても出題されます。ゆえに、新聞やニュースをこまめにチェックして、機械学習やAI関連の時事ネタに精通しておくことも、非常に有効なG検定対策となります。
G検定対策おすすめ書籍
次に、G検定2020#1に合格した筆者が活用した、2冊のおすすめ書籍をご紹介いたします。
深層学習教科書 ディープラーニングG検定(ジェネラリスト) 公式テキスト
1冊目は、JDLA監修の公式テキストです。公式テキストらしく、各分野について丁寧に説明がなされています。また、図が多く、文字だけではイメージを掴みづらい機械学習の仕組みなども感覚的に理解できる構成となっています。
徹底攻略 ディープラーニングG検定 ジェネラリスト 問題集
2冊目は、G検定対策の問題集です。非常に問題数が多く、問題演習にぴったりの書籍です。また章ごとに丁寧な解説がついていますので、解説を読み込むことであやふやだった知識の定着を図ることも出来るでしょう。さらに、前述のようにG検定は時間設定がシビアであるため、この本に収録されている模擬試験を活用して、問題を解くペースをつかんでおくことをおすすめします。
その他
ここで紹介した2冊以外にも、JDLAのホームページには、推薦図書が数多く掲載されています。 しかし、G検定対策としては、範囲を広くカバーした書籍や問題集を数冊フル活用し、内容をしっかりと理解すれば十分だと思われます。上記の2冊に関しては、筆者が他の書籍を読んで比較していないため、必ずしもG検定対策に最適だとは言い切れません。ただ、上記の2冊で合格に必要な知識は網羅されていると感じました。
おすすめ勉強モデル
次に、上記の勉強方針とおすすめ書籍を踏まえ、筆者が実践してG検定に合格したおすすめの勉強モデルを、試験まで時間がない方のための短期モデルと併せてご紹介します。当然、事前知識の量や勉強の効率には個人差があるため、このモデルを実践すれば必ず合格できるわけではありませんが、これから勉強される方の一つの指標となれば幸いです。
中期モデル(勉強期間3ヶ月前後、筆者おすすめ)
時期 | 学習内容 |
試験約3ヶ月前〜 | G検定公式テキスト1周目 |
試験約2ヶ月前〜 | G検定公式テキスト2周目 |
試験約1ヶ月前〜 | G検定問題集×3周 |
試験1週間前〜 | 苦手な分野の確認 |
※随時 | AI関連のニュースをチェック |
これが、筆者おすすめの勉強モデルです。このモデルに従って勉強するのであれば、勉強時間を毎日取れなくても問題ないと思います。時間をかけて基礎を理解し、その後に問題演習で試験への対応力をつけるモデルとなっているので、もしテキストと問題集を十分に理解できていれば、試験にも多少余裕を持って挑めるかもしれません。 また、時間をかけて学習するため、試験後も知識が抜けにくく、長期的にみても有効な学習モデルであると思います。
短期モデル(勉強期間1ヶ月前後)
時期 | 学習内容 |
試験約1ヶ月前〜 | G検定公式テキスト1周目 |
試験約3週間前〜 | G検定公式テキスト2周目 |
試験約2週間前〜 | G検定問題集×3周 |
※余裕があれば | AI関連のニュースをチェック |
これは、初学者でも合格の可能性がある最短スケジュールであると筆者が考えるモデルです。約1ヶ月間で合格を目指すため、なかなかタイトなスケジュールではありますが、しっかりと内容を理解しながらこなせれば、合格の可能性はあるのではないかと思います。 ただ、受験後に急激に知識が抜ける恐れがあるので、受験後も継続的な学習が必要でしょう。
受験時のアドバイス
最後に、G検定を受験する際のアドバイスを3つご紹介します。
動作確認は必ず行う
G検定は、非常に珍しいオンライン受験で、自宅で受験することとなります。専用の受験サイトでログインして試験ページに入るのですが、PCが受験に対応しておらず、受験できない場合があります。そのような事態を防ぐために、受験サイト左下の欄(下図3参照)から動作確認を行うことをJDLAから推奨されますので、必ず行っておきましょう。
なお、この動作確認はもう一つ重要な意味を持ちます。それは、テストの形式を確認できるということです。G検定の受験ページには、文字サイズの変更や全ての問題の一覧表示、わからない問題や自信がない問題をあとで解き直すための問題チェック機能などが搭載されていますので、全てスムーズに活用できるようによく確認しておくことをお勧めします。
スピーディーな回答
しつこいようですが、試験本番では一つの問題であまり考え込まず、スピーディーな回答を心がけると良いでしょう。最新事例に関する問題や技術に関する発展的な問題も一定数出題されるため、意識していないとつい時間を使いすぎてしまう可能性があります。後から戻って回答することもできるので、難問には上手に見切りをつけて、少しでも得点を伸ばすようにしましょう。
その場リサーチで得点アップ
G検定はオンライン受験であるため、試験中にテキストを参照したり、インターネットで検索したりすることが可能です。しかし、前述のように問題数が非常に多いことから、当然調べることができる問題数は限られます。では、どのような問題を解くときにリサーチすれば良いでしょうか?私がおすすめするのは、「見たことはあるけれど回答に自信が持てない」ような問題を解くときです。全く見たことも聞いたこともない内容の問題に対してリサーチをするのは、的外れな調べ方をして時間がかかりすぎてしまう恐れがあります。少なくとも後回しにした方が賢明でしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?G検定は、機械学習やAIを学びたいけれど何をどう学べばいいかわからなかった人や、機械学習・AIに関する知識を証明できる資格を探していた方にはぴったりの検定試験だと思います。ぜひ受験を検討してみてください。そして、ぜひこのサイトの勉強法を参考に、合格を目指して勉強してみてください。
もっと学びたい方へ
機械学習やAIに関して、G検定の勉強と並行して、あるいはG検定合格後にもっと学びたい方には以下のような資格試験や学習用コンテンツをお勧めします。
機械学習の実装を学びたい方
JDLA E資格:前述の、JDLAが機械学習エンジニア向けに実施している資格試験です。JDLA認定プログラムを修了しないと受験できないのでG検定に比べて受験のハードルは高いですが、チャレンジしてみてもいいでしょう。
codexa:当サイトでは、機械学習実装を学ぶためのコンテンツを豊富に用意しています。どれも無料またはかなり低価格でご利用いただけますので、ぜひお試しいただければと思います。
機械学習を支える統計理論を学びたい方
統計検定:日本統計学会が実施している、統計に関する知識や活用力を評価する試験です。機械学習は統計学に立脚した分野ですので、統計学を学ぶことで機械学習に関する理解も一層深まることでしょう。